新型コロナウィルスが、発生地である中国だけでなく日本でも猛威を振るい始めており、数に差はあるとはいえ世界第二位の感染者数を数える日本でも、人々の不安は日々高まってきています。そうした多くの人々の心に発生し始めている不安、焦燥に対処するために、様々な分野での心理的な支援の体制の構築が求められています。
私たちアジア災害トラウマ学会では、2/10の午後8時から9時までの1時間、この分野での豊富な先行経験を持つ中国科学院の劉正奎先生と、オンラインでの会議を行いました。日本側から参加したのは、当学会理事の富永良喜(兵庫県立大学)、黄正国(広島大学)そして私、高橋哲の3名です。
劉先生とは、中国での四川大地震に際して日本から心理支援に係る専門家チームを派遣した時からもう10年以上の交流が続き、毎年東アジア各地て開催される当学会大会でも、何度も基調講演をいただいています。
今回の会議は、現在中国で行われている具体的な心理援助の内容を詳細に示していたたき、それに対して私たち日本の専門家が質問や感想、コメントを述べるという形で行われました。その中身は下記に掲載した通りですが、四つの基本的な目標を定め、時期的な援助の段階を長期的な展望のもとに設定し、現在を急性期と見なして、四つの目標ごとに様々な分野で詳細な活動が行われている様子が示されました。特に今回の事態の大きな特徴である「対面で面接できない」ということをふまえて、インターネットを利用したオンラインでの
活動が大胆に導入されている点については、私たちに大きな示唆を与えてくれるものと思います。とりわけ、アメリカのスタンフォード大学との共同研究ですすめられているAI(人工知能)による人間のカウンセラーが介在しないカウンセリングの試みや、ウイボ(中国版のツイッター)に掲載された多くのつぶやきの中から自殺リスクの可能性を自動的に見つけ出すAIシステムなどには、正直なところ驚きを禁じえませんでした。また、日本の報道ではまるで廃墟のような扱いをされ、不十分さのみが強調される武漢市ですが、その武漢市の中てもソーシャルワーカーとカウンセラーがチームを組み拠点を定めて巡回し、人々の不安の軽減のために日々努力しているということを教えていたたき、大きな感動を覚えました。
このように中国では、すでに人々の不安を軽減するための心理援助の試みが、様々の分野、領域で大胆に展開されています。今後日本での新型ウィルスの感染拡大がどのように進んて行くのか予断を許しませんが、私たち日本の心理支援に携わる者も、先行する中国での活動から多くの示唆をいただきながら、日本での支援体制を構築していかなければならないでしょう。さらに「見えないものの脅威」に対する心理支援という意味では、私たちにも福島での放射能脅威に対する支援の経験と蓄積がありますので、この領域における私たちの経験を世界に伝えていくことも、私たちの大きな責務であるということを忘れてはならないと思います。
「新型コロナウィルス」による脅威は、中国や日本といった国それぞれの課題である段階を越えて、世界共通の課題てあるという段階に入ってきていると思われます。そのような課題に対しては、国境を越えた広い範囲での連携や協力が要請されます。私たちの学会は、アジアで多発する自然災害の脅威に対して、心理支援の経験の蓄積を共有するために、国境を越えたアジアでのネットワークづくりを目指して設立されました。すでに当学会では、日本、中国、台湾、香港、韓国、マレーシア、シンガポールなどの専門家のネットワークが形成されています。今こそそのネットワークを駆使した専門家の協力体制の構築が求められている時に他なりません。その観点からも私たちの果たすべき課題は多いと思います。
私たちは、当学会に集う専門家の方々、またこの領域に関心を持つすべての方々とともに、この大変な事態に対して、自分にできる最大限の責務を果たしていきたいと考えていますので、どうかご協力をよろしくお願いいたします。
2020.2/11 アジア災害トラウマ学会理事長 高橋 哲
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